静岡大学 井上研究室

CNT紡績糸

 当研究室では,CNTウェブに撚りを加えてCNT紡績糸を作製している.CNTフォレストに対して後方に移動するスピンドルでCNTウェブに撚りを加えながら引き出してCNT紡績糸を作製する.スピンドルの回転速度と引き出し速度を調整し,撚り数や撚り角度を制御する.典型的な撚糸パラメータは,回転速度32,000 min-1,引き出し速度120 mm/sである.この場合,5 mm幅のCNTウェブを紡績すると糸径は20 μm程度,撚り角度は25°程度となる.CNT撚糸表面は,一般的な撚糸と同様なモフォロジーをしている.

CNTフォレストから紡績糸をつむぐ方法
CNT糸ボビン
CNT紡績糸作製

 CNT紡績糸の撚糸の強度,ヤング率はそれぞれ,約400 MPa,約30 GPaであっるた.破断部でのCNT引き抜け長が数100 μmに及ぶことから,破断モードはCNT短繊維破断ではなく,CNTすべりであることがわかった.応力ひずみ線図に見られる破断前の応力上昇率低下は,CNT相互すべりが生じていることを示している.撚糸の重量密度(0.7 g/cm3程度)を多層CNTの密度(2 g/cm3)と比較すると,内部に空隙が多く残っていることがわかる.そこで,空隙を減少させファンデルワールス相互作用を高めるため,撚糸に再度撚りを加える追撚処理を施した.その結果,紡績糸径は22.8 μmから19.2 μmに減少し,同時に重量密度は1.24 g/cm3 にまで増加した.そして、引張強度は770 MPaに,ヤング率は51 GPaに向上した.追撚処理でCNTが近接したことにより,ファンデルワールス結合領域が拡大しCNT間結合性が向上したと言える.また、高密度化の取り組みとして、2本の撚糸を合わせ撚りした合撚糸についても調べた.一端に負荷を固定した撚糸複数本を縦型のスピンドルに取り付け,荷重負荷で張力を与えて合わせ撚りを行った.張力104 MPa時に引張強度は1GPa,ヤング率は51 GPaとなった.これは,単純な撚糸の2~3倍の特性向上と言える.合撚では追撚より高密度化が可能であり,強度はさらに向上すると考えられる.

各CNT紡績糸の応力ひずみ曲線
発表論文

Enhancement of catalytic activity by addition of chlorine in chemical vapor deposition growth of carbon nanotube forests
Toshiya Kinoshita, Motoyuki Karita, Norikazu Chikyu, Takayuki Nakano, Yoku Inoue
Carbon 196, 391-400 (2022).
DOI: 10.1016/j.carbon.2022.04.075

Study on the mechanical and electrical properties of twisted CNT yarns fabricated from CNTs with various diameters
Yoku Inoue, Kohei Hayashi, Motoyuki Karita, Takayuki Nakano, Yoshinobu Shimamura, Keiichi Shirasu, Go Yamamoto, Toshiyuki Hashida
Carbon 176, 400-410 (2021).
DOI: 10.1016/j.carbon.2021.01.139

Fabrication and mechanical properties of carbon nanotube yarns spun from ultra-long multi-walled carbon nanotube arrays
Adrian Ghemes, Yoshitaka Minami, Junichi Muramatsu, Morihiro Okada, Hidenori Mimura, Yoku Inoue
Carbon 50, 4579-4587 (2012).
DOI: 10.1016/j.carbon.2012.05.043