静岡大学 井上研究室

一方向配列CNTシート

 CNTウェブを積層すると,一方向配向CNTシートが形成される.紡績性能が高いためウェブは10 m/s以上の速さで引き出すことも可能であり,簡単に短時間でCNTシートを形成できる.積層したままではCNTバンドルのたわみによって,ややふわふわしたシート材となる.そこで,より緻密化するため,エタノールなどを噴霧し揮発させて凝集化させると,通常の紙と同様なハンドリング性のCNTシートとなる.CNT同士はファンデルワールス力のみで結合しており,結合剤は使用せずとも安定した自立シートとなっている.本質的にサイズの制限はないため,図に示すようにA4サイズ程度のCNTシートも容易に形成可能である.CNTシートの厚みは巻き取るCNT量を変化させて制御する.ウェブを10層積層した時に,厚みは1-5μm程度となる.重量密度はCNTの凝集の程度によるが,0.5-1 g/cm3程度である.

 CNTはある一定の方向に配向性を有している.そのため,電気伝導特性,熱伝導特性および力学特性において顕著な異方性を示す.CNTシートの直流抵抗率は、CNT配列方向及び直交方向においてそれぞれ2.5×10-3 Ωcm及び1.8×10-2Ωcm.厚み方向については,直交方向の結果と同様と考えられる.多層CNTの電気伝導特性は,CNT径の影響を大きく受ける.多層CNTではグラフェン面内の導電性が面間より高いため,外層部が主な導電層となると考えられる.また、シート中には空隙も多く,CNT接合部での抵抗も無視できないため,多層CNTによるCNTアセンブリの見かけの抵抗率は,グラフェンのそれより何桁も大きいものとなる.導電性は,より細いCNTを密にパッキングするほど高くなる.

 CNTシートの熱伝導性においても,電気伝導と同様な特性が得られる.フィルム状試料の面内方向の熱拡散率αを光交流法にて測定し,熱伝導率Kを密度ρ及び比熱CよりK = α ρ Cとして求めた.CNT配列方向及び直交方向の熱拡散率は,それぞれ1.22×10-4 m2/s及び1.50×10-5 m2/sであった.これより,熱伝導率は各方向でそれぞれ70 W/m·K及び8.6 W/m·Kと見積もられる.報告されている等方性バッキーペーパーと比較すると高い値であるが,個々のCNTの場合に比べると非常に低い値である.熱伝導は主にフォノン伝導で生じるため,電気伝導性と同様に,内層部の寄与が小さいこととCNT界面の熱抵抗がCNTシートのマクロな熱伝導率に現れていると考えられる.

 一方、CNTシートの引張強度は、配列方向で76 MPa程度である.これは,アルミニウムと同程度の強度である.ファンデルワールス力のみで結合されているとはいえ,CNTの大きなアスペクト比によるCNT間結合力は大きく,マクロスコピックなシートとしての強度は工業材料として十分利用可能なレベルである.なお,配向の垂直方向にはCNT同士は容易に開裂するため,ハンドリングにはやや注意が必要である.

発表論文

Anisotropic carbon nanotube papers fabricated from multiwalled carbon nanotube webs
Yoku Inoue, Yusuke Suzuki, Yoshitaka Minami, Junichi Muramatsu, Yoshinobu Shimamura, Katsunori Suzuki, Adrian Ghemes, Morihiro Okada, Shingo Sakakibara, Hidenori Mimura, Kimiyoshi Naito
Carbon 49, 2437-2443 (2012).
DOI: 10.1016/j.carbon.2011.02.010