静岡大学 井上研究室

反射・吸収両様のCNT電磁波シールドフィルム

近年、データ通信量の増加や電子機器技術の進歩により、高周波システムにおける電磁波干渉(EMI)シールドの需要が高まっています。一般的に、EMIシールドには金属板が使われますが、金属は重く柔軟性に欠け、腐食しやすいという欠点があります。このため、ポータブルな電子機器には、フレキシブルな非金属材料が適しています。本研究では、CNTの電磁波吸収・反射特性を利用したEMIシールド材料を開発しました。CNT薄膜をポリエチレン(PE)フィルムに埋め込んだ複合フィルムを新たに考案し、CNT含有量を制御することで、電磁波を反射または吸収する全く新しいタイプのEMIシールドフィルムを実現しました。

CNT電磁波シールドフィルム作製方法

まず、紡績現象を利用してCNTフォレストからCNTシートを作製しました。CNTが一方向に配向しており、樹脂複合フィルム内でネットワークを形成して電気抵抗が低いことが特徴です。

次に、CNTシートをPEフィルムで挟み、ホットプレスしました。この処理により、PEがCNT間にやや含侵するためCNTがPE中に埋め込まれたような複合フィルムとなり、安定で取り扱いしやすい材料ができます。

CNT/樹脂フィルム構造

フィルム中のCNTの形態を断面走査型電子顕微鏡(SEM)で調べました。(a),(b),(c),(d)は,それぞれ1層および10層CNTウェブを積層して作製した複合フィルムをCNTの配列に対して平行および直交するように切断した断面像です。ホットメルト法では、CNTが高度に配向したままで複合フィルムを作製できることがよくわかります。

電磁波シールド特性

遠方界EMIシールド特性について、CNT/PEフィルムのEMI SEと電波吸収を同軸管伝送法を用いて測定しました。注目すべきなのは、薄膜中のCNT充填量が少ない(厚さ50 µm)にもかかわらず、配向CNT/PEフィルムが高いEMI SEを示したことです。CNTは複合フィルムの中心に高密度に閉じ込められ配向しているため、少ないCNT使用量でもフィルムは高い導電性を有します。そのため、電磁波は凝縮したCNT部で吸収・反射され、1GHz以上の高周波帯域において効果的に減衰します。CNTウェブを20層使用したフィルムでは40%反射・60%吸収し、10層使用したフィルムでは20%反射・80%吸収して電磁波を遮蔽します。
■吸収体:CNT量 2%以下
■反射体:CNT量 4%以上

これらの結果は、ウェブ層の数(ひいてはCNTの量)を制御することにより、反射および透過特性を制御できることを示唆しています。電磁波反射による電子回路の誤動作を抑制したい場合は、吸収性フィルムをもちいることで効果的な運用が行えます。

発表論文

Excellent electromagnetic interference shielding characteristics of a unidirectionally oriented thin multiwalled carbon nanotube/polyethylene film
Norikazu Chikyu, Takayuki Nakano, Gunther Kletetschka, Yoku Inoue
Materials & Design 195, 108918 (2020).
DOI: 10.1016/j.matdes.2020.108918 オープンジャーナルなので、無料でダウンロードできます